雪山登山 危険なアイスバーンを避ける為に
雪山登山において、「アイスバーン」について考えた事はあるだろうか。
山スキーを初めてからは、「雪」について、何かと真剣に考えるようになったが、まだ歩きの登山しかやっていなかった頃は、あまり深く考えた事はなかった。
アイスバーンについても、以前の私はよく理解していなかった。
アイスバーンを予測する
以前の私は、アイスバーンのリスクコントロールは、結局のところ本人の技術次第だと思っていた。山の上ならどこにでもある。それがルート上にあるのならどうしようもないものだと。滑落するのは単なる技術不足だからではないか?と安易に考えていた。
しかし、実際は違った。昨日は無かった所に、今日は凶悪なアイスバーンが出来上がっている事もあるのだ。
同じ雪山ルートでも、日によって難易度が大きく変わる可能性も大いにあり得るのだ。
山スキーがキッカケで、雪崩の可能性を予想する努力を始めた。自分が滑降する上で雪質も重要である。
気温変化や降雪・降雨状況を毎日チェックするようになってから、アイスバーンの出来るタイミングについても、なんとなく分かるようになってきた。
今改めて思うのは、「アイスバーン」は回避出来る物もあるのではないか?という事だ。
「雪質」を考えて「アイスバーンの可能性の低い安全な日」を選んで登山をするべきだ。
今回は、その備忘録である。
実例
2019年2月10日に木曽駒ケ岳で滑落事故が多発した。
上は、りんどう山の会の記事を参考にさせて頂いている。
私なりに原因を予測すると、
「前日降った雨により、カチカチのアイスバーンが出来上がっているから」
ではないかと考えた。
同じ事が当記事にも書かれていた。
私は丁度この土日に、北岳へ登りに行こうと画策していた。
しかし、上の理由から、北岳登山を見送りにしていたのだ。
念のため山スキーの達者な仲間にも確かめたところ「山はカチカチに凍っていて危険だから絶対に行かない方が良い。」と止められた。
滑落の直接的原因は当事者しか分からない事である。
しかし。もし、凶悪アイスバーンにスリップしてしまったのだとしたら、この事故は事前に予想し、回避する事も出来たのではないかと思わずにはいられなかった。
Powder Search
事前に予想する為の手段として、一つ有益なサイトを紹介する。
「Powder Search」だ。
山スキーヤーの間では比較的有名なサイトである。
このサイトは、日本国内のアメダスデータをグラフとして確認することが出来る。
日々の積雪の変化、日照の変化から雪質の状況や、積雪深を大まかに推測することが出来るのだ。
試しに、滑落事故のあった10日を入れて、2019年2月11日までの1週間の記録を検索してみる。
アメダスなので、ピンポイントで知りたい山の状況を知る事は難しい。
ざっくりと、該当山域に近いところを検索してみる。
例では「中ノ湯」と「白馬」のアメダスを使用してみた。
ここで注目すべきは2月7日から8日にかけてである。
気温は0度以上。6日から暖かい気温が続いているが、より高くなっている。
加えて、雨が降っている。
標高1,337mの中ノ湯でさえ雨が降っているのだ。
千畳敷カールは標高が約2,600m以上であるが、中ノ湯でも雨が降っている状況を考えると、こちらでも降雨(降雨でなくとも水分を含んだ湿雪)である可能性が高いと言える。
そして次に翌日9日から10日の部分を確認する。
気温はガクッと下がり、日中さえも氷点下である。
前日の降雨(もしくは湿雪)が果たしてどうなるのか?想像出来るだろう。
天気予報
もし、ここまででも自信がなければ、「天気予報」を調べる。
これは、気象庁の「過去の天気図」である。当時の天気予報をもとに、コメントを加えたものだ。
6日は「低気圧本州南岸を通過」という言葉がある。
いわゆる南岸低気圧は、日本との接近具合によっては、太平洋側に大雪をもたらす。(このような日に登山・スキーはもはや無謀)
今回に関しては、日本にかなり接近しているため、大雪被害は無い。
しかし低気圧接近に伴い気温は上昇するし、太平洋の湿った空気を抱えてくる為に、降雨若しくは、降雪した場合もベチャベチャの湿雪となる。
そして8日から寒気が降りてきて、急激に冷え込んでいる。9日は「観測史上最低を記録」とまで言っている。
当時、テレビを見たり、ネットで調べれば、6日や7日の予報では気温が高い事や、雨が降る事を発表しているだろう。
そして、9日の「記録的な寒波」をニュースで騒がないはずが無い。
例えば、天気予報っぽく言うのであれば
「金曜日までは4月並の気温、各地で降雨。週末は記録的寒波到来。寒暖差に注意。」
など、そんな感じの事が報道されると思う。
ふと調べてみたら、過去のニュースが出てきた。まさしくこれだ。
暖冬傾向を覆す歴史的寒波が襲来(日直予報士 2019年02月06日) - 日本気象協会 tenki.jp
このニュースは6日の夕方に出ている。
パウダーサーチに加えて、こういったニュースを確認する事で、出発の前夜までにはどうするべきか、覚悟が決まるだろう。
事故を起こさない為に
今の私であれば、「気温上昇、降雨後の厳しい寒波によりアイスバーンが出来上がり、山では滑落の危険性が高くなる」というリスクを多少は想像する事が出来る。
しかし、雪山には、私の想像力が及ばないような様々なリスクが、まだ多く潜んでいる事だろう。
もしいつか、想像できないリスク、危機に陥ったら何が出来るだろうか。
為す術もなく命を落としてしまうかもしれない。
それならば、1つでも多くのリスクを想定し、事前回避できた方が良い。
では、どうやって「自分の知らないリスク」を想像出来るようにするのか?
色々あると思うが、今の私が取り組んでいるのは、「実際の遭難事例を調べる事」だ。
先程紹介した、「りんどう山の会」の記事にも
「先日に降った雨が凍ってカチカチのアイスバーンとなっていることが滑落の一因と思われる。」と書いてある。
この記事を読むだけでも「あぁ危ないんだな。」と知り、1つの「リスク」を理解する事が出来る。
実例があった場合に、その時の状況、環境はどうだったのかを調べる。
自分なりに原因を推察してみるのだ。あくまでも予想であり、それが原因という根拠はもちろん無い。結局、遭難の原因というのは当事者にしか分からないものだと思う。
(その為、りんどうの会でも「〜と思われる。」と表現しているのだろう。)
しかし、その積み重ねで「予測する能力」は向上するものだと思っている。
主観的ではなく、客観的に、柔軟な思考を持つ事。
幅広い情報を吸収して、リスクコントロールをしていけたらと思う。
最後に
人気の雪山(日本アルプス)と言えば、木曽駒ケ岳、唐松岳、西穂独標が、あちこちで紹介されているイメージがある。
私は、決して手軽な山ではないと思う。先ほど言ったように、状況により難易度は異なるからだ。入山者が多いからといって、雪山を侮ってはいけない。
雪山は「人気」で選ぶのではなく「雪や天候の状況」で選ぶものだと思う。
もし、嫌な予感がしたら、山を変更する、滑落の危険の低い場所へ行くなど柔軟に変更するべきだ。
別に雪山は1つではないのだ。よく探せば、あちこちに魅力的な山々があると思う。
私自身も雪山初心者である。いつでも山を敬い、安全に楽しく、雪山歩きを楽しみたいものだ。