伝付峠〜蝙蝠岳〜北岳 南アルプス縦走 3/3〔日本第2位の高峰 北岳〕
10月の連休。南アルプステント泊縦走の3日目と4日目です。
幕営地から間ノ岳、北岳を経て広河原へ下山です。
前回の続きから
10月8日(月)
4:25幕営地ー5:30北荒川岳6:00ー7:10新蛇抜山ー8:25安倍荒倉岳ー8:50熊ノ平小屋9:10ー11:20三峰岳ー12:20間ノ岳ー13:45北岳山荘ー15:15北岳15:40ー16:20北岳肩の小屋
10月9日(月)
5:55北岳肩の小屋ー6:20小太郎山分岐ー7:30白根御池小屋ー9:00広河原山荘
幕営地〜間ノ岳
今晩も夜明け前にやっとうとうとして来たが、そんな身体に鞭を打ち3時に目を覚ます。
夜明け前の稜線歩き
支度を整え、4時30分幕営地出発。辺りはまだ暗い。
今回、目標の1つとして、夜明け前から行動すると決めていた。早起きするのは眠いし、暗い中テントを撤収するのも寒い。寝袋に潜っているとなかなか身体を動かすのが辛いが、実際に行動に移してみると意外とテキパキと動くことが出来た。
真っ暗な中、ヘッドランプの明かりを頼りに稜線を歩く。
暗闇の山の中をたった一人で歩く事も、怖くはないかと不安だったが、不思議な事に昼間歩くよりも穏やかな気持ちでいられた。
辺りには誰も居ない。一人だけの静かな空間。
暗闇の中にかすかに見える山々のシルエット。
ヘッドライトの明かりを消して空を見上げると、一面に広がる星が眼に映った。
夜明け前の稜線歩きがこんなにも魅力的だとは知らなかった。
次第に空が明るんでくる。
日の出まであと僅か。次のピークは北荒川岳。
山頂で日の出を見るべく、ピッチを上げる。
どうしたことか、私は日の出が近づくと急に元気になる。
夜明けを山頂で迎えたいという気持ちが足を加速させるのだろう。
ご来光
ちょうど北荒川岳山頂で、ご来光を迎える事が出来た。
360度のパノラマ。どの方向を向いても雄大な山々が目に入る。
たった一人で迎えるご来光。最高の景色を存分に堪能した。
いや、近くのハイマツの中で雷鳥がゲコゲコと鳴いていたので、一人と一匹だった。
寝っ転がったりして、20分ほど伸び伸びと過ごし、名残惜しいが北荒川岳に別れを告げる。
間ノ岳ヘはまだまだ遠い。
標高が下がり、再び樹林帯歩きが始まる。
蝙蝠尾根と比べて、アップダウンも少なく、快適に歩くことができた。
新蛇抜山
途中途中で、ザックをデポして山頂に寄り道。
「山と高原地図」には、新蛇抜山と大井川東俣を繋ぐ廃道が記されている。
もし機会があればいつか歩いてみたい。
新蛇抜山を通過してからは、岩の目立つ険しい稜線になってきた。
安倍荒倉岳
ザックをデポして安倍荒倉岳に寄り道する。
素晴らしい展望
樹林帯を抜けて一度展望が開けると、仙丈ケ岳、甲斐駒ケ岳、間ノ岳が真正面に見える。なんと素晴らしい縦走路なんだろう。
振り向けば塩見岳、東を向けば農鳥岳、西を向けば中央アルプスが私を見守ってくれている。天気も良いし、最高の山歩きだ。
熊の平小屋に到着
そして、熊の平小屋に到着した。
熊の平小屋は既に冬季閉鎖していた。
ここの小屋番の人に昨日のデポザックの事を打ち明けたかったので、残念だった。
すると、間ノ岳方面から一人、男性の方が歩いてきた。
挨拶を交わす。今日は北岳山荘から歩いてきてここでゆっくり一泊するとの事だった。
明日はどうするか聞いたらまた北岳山荘へ戻るとの事だった。
北俣分岐へは行かないのか・・・。また話すに話せなくて残念だった。
熊の平小屋の冬季小屋はとても綺麗で、私もいつか泊まってみたいと思った。
テラスからは大きく農鳥岳が見えた。
いよいよ間ノ岳へ
しばし休憩を挟み、水を補給し間ノ岳に向かう。
さて、いよいよ本格的な登りに入る。
相変わらず間ノ岳は遠く感じるが、コースタイムでは2時間だ。
あと2時間後には山頂へ行けることを信じて、進む。
三峰岳(みぶだけ)への登りは急登だと思っていたが、その道はつづら折りにつけられていて、比較的疲れのたまらない登りだった。
三峰岳近辺は岩場が多く、慎重にクライムダウンする場所もあった。
南アルプスというと山体が大きく歩きやすいイメージだったのだが、決してそんなことは無く、険しい場所もあちこちに存在していた。
ついに間ノ岳山頂へ。人が増えて賑やかになる。
一人、単独の女性の方とお話した。
これから三峰岳をピストンしてくると言っていたので、その方面から来た私に声をかけたとの事だった。
「行ってらっしゃい。」と見送り、小休止を挟む。
間ノ岳の山頂へ行くのは、2度目だ。
以前は、9月に弘法小屋尾根から登頂した。
あの時散々苦労したので、その分間ノ岳には思い入れがある。
間ノ岳〜北岳
休憩もそこそこに、出発する。
熊鈴がうるさい
北岳に向かっていると、後ろからチリーンチリーンとクマ鈴の音が聞こえてきた。
単独の若い男性の方だった。
まだ、だいぶ後ろを歩いているのだが、クマ鈴の音は風に乗って稜線に響き渡る。
しばらくその場で待機して、先に行ってもらうことにした。
こんな稜線上の樹林も無い岩稜帯に熊は出ないのに・・・。
すれ違いざまに挨拶をされた。そのタイミングで言おうかと思ったが、そのうち音も離れるだろうと思って、口をつぐんだ。
男性との距離は徐々に離れていくが、半径100m以上離れても風に乗って音がこだまする。
今までは、人の鳴らすクマ鈴を気にした事は無かったし、どちらかと言うと、クマ鈴の音で怒る山仲間や先輩を、落ち着かせる立場の私であったが、今回ばかりは、本当に不愉快だった。
この3日間の素晴らしい出来事の数々、、赤の他人の、たった1つの熊鈴で、悲しくなるほどに台無しにされてしまった・・・。
最後のピーク北岳へ
北岳山荘付近まで到着。
時間は13時。ここで幕営するかどうか悩む。
ふと北岳を見るとガスが晴れている。
今登れば景色が見えるのでは?
・・・よし、北岳は今日中に越えてしまおう。
15:30到着を目標に、山頂を目指して足を進める。
すでに本日の体力の大半を消耗してしまったようで、ペースが全く上がらない。
分岐で、写真好きのお兄さんと挨拶を交わした。
ペースの遅い私の後ろを写真を取りながら歩いている。
見かねて、「私、かなり遅いので先に行っていていいですよ。」と言った。
すると、「僕も写真撮っているのでこれで良いです。」と言われてしまった。
なんだか申し訳ない。
分岐から山頂までは20分、まだ果てしなく遠く感じる・・・。
ついに山頂へ到着。
しかし、すでにガスの中。残念ながら間に合わなかった。
しばらく30分ほど滞在するが晴れる気配なし。
すると、後から登頂した写真のお兄さんが、お疲れ様、といってみかんの缶詰を開けて、少し分けてくれた。
疲れた体にみかんの甘さが染み渡る。とても美味しかった。
北岳肩の小屋にて幕営
16時20分ごろ、肩の小屋へ向けて下山。
幕営準備を整えてから、水を汲みに行く。
ハンドルを回しても何故だか水が出ない。肩の小屋のおじちゃんに「水が出ないんですが。」って言うと、回すんじゃなくて押すんだよと教えてくれた。
あらら、簡単に水が出てきた・・・。
その流れで肩の小屋のおじちゃんとおしゃべりをする。
そこでやっと、昨日のデポザックの事も打ち明けた。
遭難の情報は聞いていないから大丈夫だろう。との事だった。
やっと人に話すことが出来て安心した。
あの分岐にザックが残置されたまま持ち主が行方不明となるのは過去にも実例があるようだ。その話を聞いて、やっぱり少し怖くなってしまった。
他にも南アルプスの色々なルートの話も出来て、とても楽しかった。
小屋が夕飯時だったので、途中で中断したが、また今度じっくり話す機会があればいいなぁと思った。
夜はカップラーメン。外の景色を見ながら食事を摂っていると、近くのテントのお兄ちゃんがソーセージを焼いていた。美味しそうな匂いが漂ってくる・・・。
あぁ羨ましい。私も食べたい。
広河原へ下山
翌朝、夜明け前に起床。肩の小屋でご来光を眺めてから広河原に下山する事にした。
外には雲海が広がっており太陽が顔を出したのは6:20頃だった。
ザックを背負い、下山開始。10:00発のバスに間に合えば良いのだけど。
気持ち急ぎ足で進むが、稜線を降っている最中に見える仙丈ケ岳や甲斐駒ケ岳、鳳凰三山に何度も目を奪われ一向に足が進まない。遠くには八ヶ岳連峰や鋸岳も見えている。
早朝の爽やかな空気、ガスは全く湧いておらず、綺麗な景色を眺めることができた。
稜線を外れて、樹林帯を進む。
夏の北岳は、緑豊かで、高山植物の咲き乱れる美しい山だ。
今はそんな気配はなく、ただただ静かで草木は茶色く枯れてしまっている。
また来年になると冬眠から目覚めて一斉に花開くのだと考えると、山の季節の移り変わりというのはすごいと感じた。
草スベリから白根御池小屋へ
「草スベリ」、私が初めて登った日本アルプスこそ、この北岳である。当時は「草スベリ」にだいぶ苦戦した。転びそうで怖くて恐る恐る下山していた。
それが今となっては、むしろスピードアップしてコースタイムを稼げるくらい歩きやすいと感じている。あの頃に比べたら山歩きも少しは慣れたという事だろうか。
ほどなくして白根御池小屋に近づいてくる。
山での出会い
白根御池小屋には、昨日の山頂でみかんの缶詰を分けてくれた写真好きなお兄さんがいた。「昨日はみかんごちそうさまでした。」とお礼をいう。
時間もあったので、休憩がでら話をする。
話すほどに、このお兄さんが、かなり山好きであることが分かってきた。
普通の人なら見逃してしまいそうな山の魅力をたくさん知っていた。
そして、私にその一部をこそっと教えてくれた。
バスの時間を考えてかなりピッチをあげて下山したら、1時間早く広河原に下山してしまった。
すると、同じタイミングで写真のお兄さんも下山してきたので、一緒にバスを待つことにする。
その間、紅茶を沸かしてご馳走してくれた。
またまた山の話で盛り上がり、大変貴重な話を聞けた。
いよいよバスの時間がやってきて、お兄さんは芦安で下車。
バイバイと手をふり、一期一会の出会いが終わる。
名前も知らない、住んでるところも知らない、お兄さんの事は何も知らないけれど、同じ山好きで、山の話で盛り上がった。
今日はとても楽しかったし、お兄さんを尊敬した。一期一会の出会い。こんな距離感が心地いい。人と話せるのも、単独の魅力だろうか。
終わり
3泊4日、私にとって初めての「単独テント泊大縦走」は、色々とあったが、なんとか無事に幕を閉じた。
・・・いや、少し違う。家に帰ってズボンを見たら初日の滑落の衝撃でお尻に大穴が空いていた。全く気がつかなかった。ついでに買ったばかりのタイツも穴だらけだった。
当ズボンを履いている間は一度も人に会わなかったのが幸いした。
このズボンも来年の夏までに修理しなければいけない。