山岳遭難について思うこと。
私は、この夏から北アルプスの山小屋で働いている。
山小屋の従業員になってから、遭難事故の連絡は何度か小屋に入ってきた。私自身はあまり動く事はないが、連絡が入るたびに小屋のオーナーや常駐の山岳警備隊の方が忙しく対応している。
遭難の内容は、転倒による怪我が殆どであるが、つい最近は悪天の中入山したパーティーの1人が増水した沢の渡渉で失敗し溺れる事案が発生した。
遭難者は命に別状は無かったから良かったのだか、私自身は、「どうしてこんな日に入るのか?」「増水した沢を見て引き返す判断は無かったのか?」と、そのパーティーのリーダーを心の中で攻めずにはいられなかった。
そんな中、つい一昨日、残念な事に死亡遭難事故が発生してしまった。
現場は、小屋まであと1時間というところだった。 一般的に「危険」と言われている箇所は既に突破した後で、普通の登山道を歩いている時の出来事だった。
誤って谷側に転落してしまい、その後同行者の通報、ヘリにて救助されたものの亡くなってしまった。
話を聞く限り、「どうしてこの人が」と思わずにはいられない遭難事故だった。
この遭難者の方は悪天の度に何度も小屋に連絡を入れ、宿泊予約を変更し、やっと訪れた好天、憧れのコースをいよいよ歩きにきた方だった。
それを思うと本当にやりきれない気持ちである。
山に入る人は、千差万別だ。
いかにも軽装で「山を舐めてるのか!」というような人も居る。
逆に、装備も考え方もしっかりしていて「この人なら大丈夫」と思える人だって居る。
しかし、どんなにしっかりしていても山岳遭難は起こってしまう、ということを深く感じさせられた。
もしかしたら、山には本当に、谷底から足を引っ張ろうとする者が居るかもしれない。
「自分は大丈夫」という事はないのだ。
いつも一緒に登っていた山仲間が突然、亡くなるかもしれない。
もしかしたら自分自身が、居なくなるかもしれない…。
山岳遭難に遭わない為に大切な事は何だろうか。
まずは、予測出来るリスクは最大限に把握・回避することは必要不可欠。
装備不足、判断不足、経験不足で遭難してしまうのはあってはならない事だ。
それでもなお、遭難に巻き込まれるリスクというのは、ゼロにはならない。
そうすると、後は、一瞬たりとも「油断」しない事ではないか。
登山はやはり、常に死が間近にある。
いつ、どこで、誰が遭難するか分からない。
ただ一つ言えるのは、他人事では絶対にないという事。
その事を覚悟して、私自身も山に登りたい。
客観的な遭難を見ていると、ここ最近は65歳以上の登山者の遭難が目立っているように感じる。
高齢者の遭難は大事に至ってしまう可能性がやはり高い。年齢を重ねるごとにどうしても身体の丈夫さは衰えてしまう。
本当に、無理はせず、慎重に慎重を重ねた登山を心掛けて欲しい。
2019/10/21追記
本記事を投稿してから、また新たに死亡遭難事故が4件発生した。わずか10日間の出来事である。
上に「高齢者」が多いと記したが、若い方も亡くなられた。また単独の遭難が比率としては多いが、グループ登山の遭難(メンバーの1人が転落してしまう等)もゼロではなかった。
どんな状況の中でも、1人1人が油断せず、命を守るための行動を心掛けて欲しい。